汗かくメディア2020受賞作品公開展示【記録】

アートと遊びと子どもをつなぐメディアプログラム汗かくメディア2020受賞作品公開展示【記録】

終了しました

  • 会期
    2020年10月17日(土)から11月1日(日)まで

愛知県児童総合センター(以下、A C C)では、開館当初からおこなってきた遊具・あそびのプログラム開発事業として、「アートと遊びと子どもをつなぐプログラム」(第1期)を1996年から2002年までに6回実施し、2006年の再オープンから2016年までの10年間は「アートと遊びと子どもをつなぐメディアプログラム“汗かくメディア”」(第2期)として継続してきました。この間、数多く寄せられた優れた応募作品は、愛知県児童総合センターおよび地域のあそび場の活性化に寄与してきました。そして2018年より第3期として公募を再開し、さらに[アート]と[あそび]と[メディア]の原点に立ち返り、新たなあそびのプログラム開発に取り組んでいます。

ACCの目指す[あそび」と、[アート]にはいくつもの共通点があります。
固定観念を問い直すアートの自由な発想と表現方法は、日常の縛りや通念から解放し、五感を開き、新しい気づきをもたらします。ACCで開発されているあそびのプログラムも、同じように既成概念を取り払い身近なものやことを見直し、そこから新しい発見が生まれます。
今、私たちの身の回りにはコンピューターをはじめとするデジタル機器があふれていて、もはや生活の一部となっています。そんな現代だからこそ、改めてデジタル以外のメディアにも目を向けて、多種多様なものやことの可能性を探る機会が求められているのではないでしょうか。『アートと遊びと子どもをつなぐメディアプログラム』では、[アート]の視点が取り入れられた様々な媒体(メディア)による新しい[あそび]を実現することによって、私たちをとりまく世界との「これからの関わり方」を提案していきます。
今回、2020年1月14日からの募集時当初、COVID-19の報道がされ始め、募集締め切りの3月初頭には私たちの想定をはるかに上回る深刻な状況となり、ACCもほぼ2カ月半の休館を余儀なくされました。そして、ようやく5月16日に開館し、それに伴い選考会も無事に行うことができましたが、募集期間のタイミングもあり、提案された作品は、当然「COVID-19(新型コロナウィルス)感染拡大」を想定されていないものであり、選定は極めて難しいものとなりました。
また、その時点ではACCもあそびのプログラム実施の目途がついていない手探りの状況下にありましたが、受賞者のみなさんにはご心配とご苦労をおかけしながらも、いかに安全にかつ魅力的に作品を具現化できるか、打合せも多々重ねての実施となりました。
今回、「いつもとは違う状況」を目の当たりにし、新たなワークショップの可能性が示唆された一方、あらためて実際に目で見て、音を聞き、触れて感じる「実体験」のすばらしさと楽しさを感じられる機会となったことも事実貴重な経験でした。
14日間の公開展示の期間中、延べ1,080人が作品を体験し、たくさんの子どもたち、大人たちが自分たちの感覚を実感する場となったことをうれしく思っています。

きょくせんとちょくせん

垂谷 知明

1984年京都府舞鶴市生まれ。2007年に大阪芸術大学を卒業後、子供服メーカー、知的障がい者施設などの職を経て画家となる。主な展示歴に、「Adding Dimension」(2011年, 香港)、「第19回 グラフィック 1_WALL」(2018年, 東京)、「ファン・デ・ナゴヤ」(2020年, 名古屋)など国内外で活動中。彼の「曲線と直線」シリーズは、絵画療法などをヒントに2018年に考案、以後70名に及ぶ方々と制作を行う。

作品解説
 「きょくせんとちょくせん」は、将棋のように2人で行いますが勝ち負けがなく、お互いに協力しながら絵を描きます。また、知識や経験、職業、年齢をとわず誰にでも制作が可能です。やり方は、ペアの相手と、曲線と直線を交互に描き、その線の交わりから「何が見えるか?」を連想し(動物や自然など何でもOK)、色を塗り、話し合い、ふたりの絵日記のような形に仕上げます。
当制作は、ふたりで一緒に描くことで、自分ひとりでは想像もつかなかった発想や創造力がお互い刺激されます。また、「自分の思い通りにいかない」という大きな特徴があり、まるで人生のようなプロセスを辿りながら完成します。自分の主張を通すだけでなく、相手をも受け入れ、寄り添い、ぶつかり合う。そんな、あなたと私の交流のプロセスが一枚の絵となり、言葉となって浮かび上がります。
 

作家感想
 今回の「きょくせんとちょくせん」は、私が講師となって皆さんにご制作いただき、最終的に90作品、計180名(4歳~70歳)の方々にご体験頂きました。実務上、様々な制限の中で行うこととなり、不安も多かったですが、いざ蓋を開けてみれば、皆さんに熱中して頂き、予想を超える多様な物語が生み落とされました。
今までは描く側として「曲線と直線」を自らも実践し、子どもからお年寄りまで約70名の方々と向き合い描いてきました。今回、私は参加せずに皆さんの制作を講師として見守る中で、ひとりひとりの強さと可能性を感じることができました。また同時に、私が1歩退いたにも関わらず、実は私も、皆さんとの深い関わりのなかにあることに改めて気がつきました。私が緊張すれば全体に重い空気が漂い、また私が急かせば皆さんの余裕もなくなっていく。その皆さんの心の動きは全体の雰囲気から、そして描きだされるものへと現れる、そんなことを18度のワークショップを通じて、ひしひしと感じ、皆さんへ語りかける言葉や、自らの行動、振る舞いをその都度反省し修正しながら、他者との向き合い方を自分なりに、深められたように感じます。
当制作は、他者が入ることで思わぬ線やイメージに遭遇します。とある回で、8歳の女の子が鼻血と涙を流しました。その理由は、ペアの母親に、自分のイメージとは違う線を引かれ、あまりのショックに鼻血と涙が止まらなくなったようでした。ただ、だからこそ彼女は真剣に取り組んでくれていたとも感じ、嬉しくもありましたが、中断が10分続き、もう無理かなと思っていた中で、彼女はもう一度ペンを握り直して、その受け入れがたい母親の線を消すこともなく、母と共に最後の文章まで描き切りました。自分の意図を超えた、受け入れがたい他者による介入は人生の中でたくさんあります。彼女は、一度否定した母親の線を受け入れて、また母と共に、この先の新しい未来に向かって歩み始めてくれたのです。

◎heartbeat plus

勝部 里菜・内山 俊朗

[勝部 里菜]筑波大学 人間総合科学学術院 人間総合科学研究群 博士後期課程 デザイン学学位プログラム 1年/筑波大学 大学院 人間総合科学研究科 博士前期課程 感性認知脳科学専攻 修了
[内山 俊朗]筑波大学 芸術系 准教授/筑波大学 大学院 芸術研究科 デザイン専攻 修了

作品解説
heartbeat plus(ハートビートプラス)は、心拍数の上げ下げを用いたあそびです。心拍数とは1分間に心臓が拍動する回数のことで、子ども大人に限らず人間を含む全ての動物に存在するものです。心拍数はとても身近なものですが、普段あまり意識することはなく、自分の意思で完全にコントロールすることも難しいです。このような心拍数の特徴を利用して、みんなで楽しめるあそびにしたのがこのheartbeat plusです。

作家感想
 今回の展示は新型コロナウイルスの感染対策が大きな課題となりました。私たちは以前から、人が触れたり、身につけたりする作品を展示するときには、安全に対する配慮を常に行ってきましたが、それらはいずれも身体の部位が隙間に挟まれないか、強い光が目に入らないかなど、リスクと結果がその場で結びつくものが中心でした。しかし、今回はウイルスという目に見えないものが相手だったため、作品制作にあたってはこれまで経験のない配慮が必要になりました。
例えば、心拍計やベルトのように人の肌に直接触れる部分は、液体で消毒しても問題のない素材を選定し、凹凸がなく拭き取りやすいシンプルな形状にするなど、ハードウェアのデザインを工夫しました。それが功を奏して、スピーディーに消毒・運営が可能になり多くの方々に作品を体験いただくことができました。その他にもソーシャルディスタンス、常時換気など、複数の感染対策を組み合わせて展示を行い、大人からよちよち歩きの小さな子まで、安心してあそびを楽しんでいただけたのではないかと思います。
実は心拍を使ったあそびを3つ用意していたのですが、絶え間なく来館者の皆様にお越しいただいたため、切り替える時間的余裕がなく1つのあそびを体験いただく形になりました。これはやや誤算で反省点でもあります。
私たちは日常の中にある楽しいことを探究し、ユニークで新しいあそびを創り出すことをテーマにしています。しかし、何か不安やひっかかりがあると、人々は心の底からあそびを楽しめなくなってしまいます。ポストコロナ時代においてのあそびは今回のような対策が安心のために必要になると思います。その最初のタイミングに展示の機会を頂けたことは大変光栄で、今後の自信にもつながりました。

◎おふとんDJ

大久保 拓弥

1993年生まれ/愛知県出身。
アート・デザインなどの分野にとらわれず、プログラミング・グラフィック・WEB・映像など様々なメディアを用いた作品を手がけています。

作品解説

おふとんDJは、布をこすったときの音をリアルタイムで集音し、DJのスクラッチプレイに見立てて遊ぶ作品です。参加者は、ターンテーブルを模したベットの上で、身体を動かして布をこすります。布をこするスピードやタイミングを変えることで音が変わるだけでなく、こする場所によってチャレンジタワーの様々な場所から音が鳴る仕組みになっています。また、ベットの周りに設置されたエフェクトボタンを踏むとスクラッチの音に変化を与える事ができ、家族・グループで楽しむことができます。毎日利用する服や布製品から出る音を普段意識することはほとんどないですが、この作品を通してそれぞれの素材が持つもう一つの側面の面白さを発見してもらえたらと思います。

作家感想
おふとんDJのきっかけは、5年ほど前に宿泊していたホテルのベットで何気なく身体を動かすと、布が擦れてしゅーっと音がして、DJのスクラッチの音に似てるなと思い、この音を何かに使えないかなと考えたところからでした。今回、汗かくメディアに応募するにあたり、改めてこのアイディアを掘り下げ制作しました。まず、愛知県児童総合センターのチャレンジタワーという特殊な空間でおふとんDJを体験してくれるグループ全員だけでなく、タワーに登っている他のお客さんも楽しむことができる作品をつくるということを軸に制作を行いました。サラウンドシステムを構築することにより、チャレンジタワー内のスピーカーを階層ごとに使い分け、タワーの中間地点から聞こえる音とフロアで聞こえる音に変化をつけました。また、マイクの位置をトラッキングすることにより、布団をこすっている位置の方向から音が聞こえてくるギミックも組み込みました。さらに、フロアにエフェクトボタンを設置し、DJとして音を出している体験者だけでなく、ベットに乗っていない兄弟や両親と同時に遊ぶことができる仕組みを用意しました。実際に遊んでもらうと、想定していたようにうまくいかない点もいくつかあり、オペレーションの方法やBGM、エフェクトのかかり具合など試行錯誤しながら日々アップデートを行いました。今後の発展としては、BGMに合わせた照明効果や、VJ的要素のある演出などを取り入れてさらに体験感を高められるような演出も行えたらなと思います。また、今回ライブ会場などで使用されるプロユースの音響機材を利用することができ、圧巻のサウンド体験になったのではないかなと思います。

※プログラム内容は予告なく変更することがあります