あのねっと18号今号の特集テーマ 子育て家族のお父さん
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村さんご夫妻はともに教員で、12歳と5歳のお子さんがいらっしゃいます。ご専門の教育学の立場から、あるいはご自身の経験から、子育てや子育て家族のあり方などについてうかがいたいと思います。まず、今の子育て家族が抱える問題についてお聞きしたいのですが、いかがでしょうか。

 それは、夫婦の労働形態によってかなり違うと思います。共働きなのか、女性が専業主婦で男性がフルタイム労働という形なのか、あるいは共働きでも自営業なのか。また、母子家庭・父子家庭の場合もあります。ですから一概には言えないんですが、いずれの場合も共通するのは、夫婦だけ、家族だけで子育てをするには無理があり、その枠組みを超えていかないと、苦しくなる場面が出てくるということです。
 そのため、保育園や学童保育所のサポートはとても大事になってきます。こうした保育施設では、保育の専門家が親とは違う視点で子どもを見てくれますし、他の子どもたちの様子も見られるので、自分の子に対する見方が多面的・客観的になります。また、他の親子のかかわり方を見て、子どもへの接し方を見直すこともできます。保育施設を利用することにより、保育サービスを受けられるだけでなく、親子関係にゆとりが生まれ、親同士の助け合いにもつながっていくので、こうした広がりのなかで子どもを育てるという前提がまず必要だと思います。
 また、地域での子育てが大事と言われるなかで、子ども会などの住民組織が弱体化していることが心配ですね。役員になりたくなくて、子どもを子ども会に入れたがらない親が増えていますよね。でも、子どもが狙われる事件が増え、地域で安全に遊ぶことすらできなくなっている現状を変えていくには、大変ではあっても親が地域の場へ出ていくことが必要ではないでしょうか。
 ぼくは以前、子ども会の会長を引き受けたことがあります。たまたま、くじ引きで妻が引き当てたものですから(笑)。せっかくやるなら楽しいことをやりたいし、子どもが安全に遊べる環境に一歩でも近づけたいと思って、新しい行事を2つやりました。ひとつは「あいちCAP」に依頼して、子どもが暴力から自分の身を守るトレーニングに親子で取り組みました。もうひとつは子ども防災訓練で、地域で遊んでいるときに災害が起きた場合の訓練を、「レスキューストックヤード」というNPOにお願いしました。
 反響はとてもよかったですね。男性の参加はぼく以外に数人でしたが、初めて子ども会の活動に参加し、いい経験になったと話してくれました。それと同時に、ぼく自身も役員をやって地域のネットワークが飛躍的に広がり、大きな収穫だったと思いますね。
育てにかかわるパートナーとの関係づくりについては、
どのようにお考えですか。


 子育てをめぐる夫婦の協力関係は、子どもができる前から、あるいは結婚する前から、お互いの気持ちを理解し合うことを大事にしてきたかどうかが基本になると思います。相手がつらい思いをしていることに気づくかどうか、そして気づいたときに話し合って何とかしようと思えるかどうかですよね。
 男性は、女性は子育てができて当たり前と思っているところがあるので、自分の妻が子育てがつらいと感じていることが、なかなか実感できません。また、女性自身も子育てができて当たり前と思ったり、社会からそう見られているから頑張らなければと思ったりしているので、つらいとは言い出しにくい。だから、子育てにかかわる夫婦のコミュニケーションは、お互いに思いやる努力がかなり必要で、何もしないで自然にうまくいくことはないような気がしますね。
 ぼくも初めは、妻の気持ちがわかりませんでした。ぼくのほうが就職が早く、労働時間も長かったので、彼女のほうが子育てできると思っていたんですね。でも、それは彼女の研究者としての仕事や未来を奪っているんだなと、あとから気づきました。お互いの思いを言えない場合は、交換ノートに書いて伝えるようにしていたんですが、彼女がなぜ怒っているのか、読んでもすぐには理解できなかったんですね。そうしたら、あるとき彼女の怒りがドカンときました。それで、とことん話し合いをして、彼女の気持ちがわかりました。でも、ぼくのほうもすぐには仕事を減らせないので、攻防戦をしながら少しずつ仕事を減らし、子どもの世話をする時間を増やしていきました。
 わが家では、ぼくは夜の講座などを担当していて生活が夜型なので、基本的に夜の洗濯と風呂掃除がぼくの仕事になっています。食事のしたくは、ふたりがいるときは一緒にするようにしていますが、朝ごはんは彼女が早く起きてつくっています。
 人は誰でも、社会関係が育っていないと不安定になります。妻を見ていて、いろんな人とかかわりながら仕事を広げていくなかで、生き生きし安定していくのを感じました。それは夫婦関係にとってもすごくいいことですし、これからもそのネットワークを広げていってほしいと思いますね。
族の育ち合いという視点から、
子育て中の家族に対するアドバイスはありますか。


 ぼくは、子どもが親との関係のなかで育つというふうには、あまり感じていないんですね。子どもの世話はしますが、育てているという感覚はないんです。子どもは自分で育つというか、保育士さんや、保育園・学校・学童保育所の友だちなど、いろんな人との関係のなかで、自分をつくってきているなと感じるんです。だから、親としてはそういう関係や場を用意してあげたいという思いと、そうして育っている子どもを理解したいという思いが強いですね。
 今は子どもを含めて家族で交換ノートをしているんですが、それは子どもに親の気持ちを知ってほしいという思いもあるんです。親がどんな気持ちで仕事をし、生活をしているか、家族に対してどう思っているかなどを伝え、子どもにいろんなことを考えてもらえたらいいなと思っているんです。子どもがどういう人間になっていくかは、子どもの領分ですから、そういう子どもとお互いを大事にし合えるような家族をつくりたいですね。
 また、初めにもお話ししましたが、子どもだけでなく親も地域で友だちをたくさんつくり、困ったときに助けてもらえるようにしておくことが大事だと思います。トラブルを起こさないように暮らそうと考えると、世界が狭くなるので、トラブルが起きたときに助けてくれる人をつくっておくということですね。もし、子どもとの関係がうまくいかなくなってしまうようなことがあっても、第三者の客観的な視点があれば、自分自身や子育てを見つめ直すことができるので、そういう人間関係づくりをしておくことが大事でしょうね。
愛知教育大学 教育学部教育科学系学校教育講座助教授。
専門は教育学・社会教育・青年期教育。夫婦共働きで、2人の子どもを生後2〜4ヶ月から保育園に預けながら育てる。