ももせ いづみ
1960年生まれ。クリエイター。執筆・イラストレーション・Webデザインやプロデュースなど多方面 で活躍。デザイン事務所、メーカーの文化事業企画の仕事を経て1997年にフリーに。著書に『誰だってワーキングマザーになれるんだ!』(海竜社)、『快適・快速 家事のススメ』(三笠書房)など。雑誌『ESSE』(扶桑社)や『すくすく子育て』(NHK出版)にエッセイを連載中。
ホームページ『M'sネット』
(http://www.cyber66.or.jp/WM/)なども運営。
育休取得の職場第1号

 私はいま自宅で執筆を中心に仕事をしていますが、息子が生まれた9年前は会社勤めをしていて、所属部署の中で初めて育児休業を取得して出産後も仕事を続けました。母がワーキングマザーだったので、子どもを持っても仕事を続けるのは当たり前だと思っていたんですね。ただ、メーカーのショールームという若い女性が多い職場で、しかも寿退社が憧れの時代だったので、会社で働き続けてもキャリアアップが望めないあせりは感じていました。そういう意味では、妊娠・出産によって先のことを考える猶予をもらったようで、ホッとしたとも言えますね。
 出産後すぐの復帰も考えましたが、第1号の責任として頑張りすぎない方がいいと思い、上司に保育園は待機児童がいてすぐに入園できない状況を説明したりして、育休も育児時短もめいっぱい取りました。結局、待機児童のいない保育園を探して、通勤時間も短縮できる場所に引っ越しましたが。もちろん復帰後は、『誰だってワーキングマザーになれるんだ!』という本にも書きましたが、子どもの病気で保育園から急な呼び出しがあるなど、仕事と子育ての両立は大変でした。
 仕事の面では、会社からパソコン研修に行かせてもらうという幸運に恵まれました。育休中にパソコン通信を始めたり、パソコンで絵を描いたりしていたんですが、復帰したら「パソコンが使える人」ということで、イントラネットの整備を始めた職場にちょうど必要だったようです。そして、パソコン研修の卒業制作で、自分の子育て経験や集めた情報を生かして『ワーキングマザー・サバイバルガイド』というホームページを作り、コンテストに応募したらグランプリをもらってしまって…。それがフリーランスで仕事をする足がかりになりました。
夫は手伝う代わりに「お金出す」

 家庭では、子育てや家事を夫に協力してもらえなくて、すごくつらい時期がありました。夫はマスコミ関係の仕事をしていて、帰宅はほとんど明け方という生活。「皿洗いひとつしてくれない」と思い始めると本当に不幸で、夫の顔を見るたびに腹が立ってしょうがなかった。そうしたら、あるとき夫から「オレできないから、お金出す」と言われて…。私は目からウロコが落ち、「じゃあ、お金もらおう」って思いました(笑)。そのお金で食器洗い機が買えるし、ベビーシッターも頼める。機械や他人任せにするのは罪悪感がありましたが、そこを割り切らないと自分が壊れてしまいますから。
 その一件があってから「子育てはひとりでできる。できなければ、できる方法を考えればいい」と思うようになり、すごくラクになりました。私が残業のときには、実家の両親に保育園のお迎えを頼んだこともありました。母が「会社の飲み会も仕事の一環だから行ってきなさい」と言ってくれる理解ある人なので、恵まれていたと思います。
 夫の存在は精神的な支えとして必要なんですが、人手として期待しすぎない方が自分を苦しめずにすむと思います。その結果、うちの場合は逆に夫の方が「存在意義がなくてヤバイ」と思い始め、子どもが成長して父親の出番が増えてきた今では、嬉々として子どもと関わるようになりましたね。
 私自身は、本を出すなど自分なりに目標が達成できたこともあり、多少仕事に対するスタンスに余裕を持つことができるようになりました。今という時間をどれだけ充実して過ごせるかを考えられるようになったので、今ある仕事を一生懸命にやりながら、自分のやりたいことを持ち、いろんな人と関わって、豊かに生きられればいいなと思っています。「お帰りなさい神話」は嫌いなんですが、かつて昼夜なく働いて子育てをやり残したような気持ちがあるので、最近は子どもに「お帰りなさい」と言える生活を楽しんでいます。
働き始めるなら、早い方がいい

 子どもが小学校に上がってから痛感しているのは、子どもは地域の中で生きているということです。地域の学校へ行き、近所の友だちと公園で遊び、地域に守られている。会社勤めのころは、地域とのつながりが希薄だったんですが、今はきちんと関わろうと思うようになりました。
 フルタイムで働くお母さんは、大変だからと頑張りすぎている部分が、家にいる人や地域の人たちに対して、バリアをつくり出している気がします。私も独身OLのなかで子育てしながら仕事をしていたとき、自分は社会の弱者だと思っていました。でも、地域はいろんな人で成り立っていると知ったら、「ワーキングマザーで頑張ってます!」と言っていた自分たちは、強者の世界にいたと実感しました。フルタイムで働くお母さんは積極的にバリアを外して地域と関わり、地域の側も働くお母さん・お父さんを取り込めるような形になっていくといいなと思いますね。
 女性も子育てしながら働ける時代になりましたから、男性並みの働き方をして頑張りすぎるのではなく、時には収入や肩書き・社会的地位を手放す勇気が必要かもしれません。また、主婦の仕事は家事労働をすることではなく、家の中が合理的に機能するようにマネジメントすること。発想を転換して家事をどんどん分散させ、働きに出たいと思ったらなるべく早く、できる仕事から始める。子どもには、生活能力を身につけさせる上でも家での役割を与えるといいと思います。自分が仕事を持っていても、家の中が回っていくような状態をつくれるといいですね。
(取材日/2003年12月10日)